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那覇地方裁判所 昭和54年(ワ)546号 判決 1985年3月20日

原告

花城清林

原告

大見昭子

原告

上江洲冨士子

原告

宮里多津子

原告

嵩本ジュン

原告

宮城恵子

原告

城間メリー

右原告ら訴訟代理人弁護士

井上文男

右同

伊志嶺善三

被告

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド

右日本における代表者

アール・ケイ・グラヴァー

右同

ジョージ・シー・ラドウイグスン

右同

デイビット・パウエル

右同

山本家敏

右訴訟代理人弁護士

中元紘一郎

右同

照喜納良三

被告

沖縄ツーリスト株式会社

右代表者代表取締役

東良恒

右訴訟代理人弁護士

唐真清供

主文

一  原告らが、いずれも被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドの従業員としての地位を有することを確認する。

二  被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドは、原告らに対し、昭和五四年一二月以降毎月二五日限り、

昭和五四年一二月以降同五五年一月までは別紙賃金目録(一)の同五五年二月以降同五六年一月までは同目録(二)(略)の、

同五六年二月以降同五七年一月までは同目録(三)(略)の、

同五七年二月以降同五八年一月までは同目録(四)(略)の、

同五八年二月以降同五九年一月までは同目録(五)(略)の、

同五九年二月以降は同目録(六)(略)の、

各原告に対応する認容額欄記載の金員及びこれに対する各支払期の翌日から支払いずみまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドは、原告らに対し、別紙賞与目録(略)(○)の各原告に対応する認容額欄記載の金員をそれぞれ支払え。

四  被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドは、原告らに対し、昭和五五年以降毎年六月一五日及び一二月一五日限り、

昭和五五年は別紙賞与目録(一)の、

同五六年は同目録(二)の、

同五七年は同目録(三)の、

同五八年は同目録(四)の、

同五九年以降は同目録(五)の、

各原告に対応する認容額欄記載の金員及びこれに対する各支払期の翌日から支払いずみまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

五  原告らの被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに対するその余の各請求及び被告沖縄ツーリスト株式会社に対する各請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用中、原告らと被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドとの間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告らの、その余を被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドの各負担とし、原告らと被告沖縄ツーリスト株式会社との間に生じたものは原告らの負担とする。

七  この判決は、第二ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  原告らが、被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドの従業員である地位を有することを確認する。

2  原告らが、被告沖縄ツーリスト株式会社に対し、被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドからの出向社員たる地位を有することを確認する。

3  被告らは、原告らに対し、連帯して、昭和五四年一二月以降毎月二五日限り、

昭和五四年一二月以降同五五年一月までは別紙賃金目録(一)の、

同五五年二月以降同五六年一月までは同目録(二)の、

同五六年二月以降同五七年一月までは同目録(三)の、

同五七年二月以降同五八年一月までは同目録(四)の、

同五八年二月以降同五九年一月までは同目録(五)の、

同五九年二月以降は同目録(六)の、

各原告に対応する各請求額欄記載の金員及びこれに対する各支払期の翌日から支払いずみまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

4  被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドは、原告らに対し、別紙賞与目録(○)記載の各原告に対応する各請求額欄記載の金員をそれぞれ支払え。

5  被告らは、原告らに対し、連帯して、昭和五五年以降毎年六月一五日及び一二月一五日限り、

昭和五五年は別紙賞与目録(一)の、

同五六年は同目録(二)の、

同五七年は同目録(三)の、

同五八年は同目録(四)の、

同五九年以降は同目録(五)の、

各原告に対応する各請求額欄記載の金員及びこれに対する各支払期の翌日から支払いずみまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

6  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

7  第3項ないし第4項につき仮執行の宣言を求める。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド(以下「被告アメックス・インク」という。)は、昭和二九年五月二七日、旅客及び旅行サービスに関する業務、クレジット・カードの発行その他クレジットカードに関する業務などを主たる目的として設立された会社で、日本における営業所を前記肩書地(略)におくほかに沖縄県内においては、沖縄市山里二四一に沖縄営業所の本部事務所を置くほか、数ケ所の事務所を置き、旅行業務、保険業務を営んでいる。

(二) 被告沖縄ツーリスト株式会社(以下「被告沖縄ツーリスト」という。)は、昭和三三年九月三〇日、国内における観光案内、海外旅行案内などの旅行業務を主たる目的として設立された株式会社である。

2  雇用契約の成立等

(一) 原告花城清林、同大見昭子、同上江洲冨士子及び同宮里多津子は昭和四八年四月一日に、原告城間メリーは同年六月二〇日に、原告宮城恵子及び同嵩本ジュンは同年五月一日に、それぞれ被告アメックス・インクと雇用契約を締結し、その従業員として採用された。

(二) 原告らは、いずれも昭和四九年六月一日に結成されたアメリカン・エキスプレス沖縄旅行社労働組合(後に「アメリカン・エキスプレス旅行部労働組合」と名称変更。以下「アメックス労組」という。)の組合員である。

3  解雇の意思表示

被告アメックス・インクは、昭和五四年一〇月三一日付の文書を以って、被告アメックス・インクの沖縄営業所を閉鎖し、それに伴ない同営業所に所属する原告らを解雇する意思表示をし、右意志表示は、同年一一月二日ころ、いずれも原告らに到達した。

4  解雇権の濫用

原告らに対する本件解雇は、沖縄地域における被告アメックス・インクの全営業所の閉鎖を理由として、全従業員を対象になされた会社側の一方的な都合による整理解雇であるところ、その有効要件である整理解雇の必要性、合理性、解雇回避の努力、労使間における協議、解雇対象者に対する人選基準の合理性を充しておらず、解雇権の濫用として無効なものである。

5  不当労働行為

被告アメックス・インクによる沖縄営業所閉鎖及び本件解雇は、原告らアメックス労組を嫌悪し、その活動を制限しようとする意図のもとになされたものであって、本件解雇の意思表示は不当労働行為として無効である。

6  出向命令

被告アメックス・インクは、沖縄営業所を閉鎖するにあたり、昭和五四年一〇月ころ、被告沖縄ツーリストとの間において、被告アメックス・インク沖縄営業所の業務を全て被告沖縄ツーリストに移譲し、右営業所の従業員も全員被告沖縄ツーリストで勤務させる旨の協定(合意)がなされ、被告アメックス・インクは、右協定に基づいて、原告らに対し、同年一一月二日ころ到達の書面を以って原告らが承諾することを条件として被告沖縄ツーリストにおいて勤務せよとの出向命令をなした。原告らは、右出向命令を受けた後被告らに対し、被告沖縄ツーリストにおける就労の意思を通知し、出向命令の条件が成就されたにもかかわらず、被告沖縄ツーリストは、原告らが被告アメックス・インクからの出向社員であることを争っている。

7  原告らの賃金請求権

被告アメックス・インクが原告らに対してなした解雇の意思表示は無効であり、原告らは、被告アメックス・インクの従業員としての地位を有するとともに、前記のとおり出向命令により被告沖縄ツーリストにおいて出向社員たる地位をも併せ有している。

昭和五四年一〇月三一日における原告らの各賃金額(基本給に家族手当、昼食手当、住宅手当、交通費、デューティ・アラウワンスを含む。)は、別紙賃金目録(一)の各原告に対応する請求額欄に記載のとおりであるが、右各賃金は、毎年二月を基準月として労使協議により改訂される慣行となっており、被告アメックス・インク東京支店における労使協議によるベースアップ、諸手当の改善を右解雇時の賃金に加算すれば各年度の原告らの賃金は、昭和五五年二月以降同五六年一月までは別紙賃金目録(二)の、同五六年二月以降同五七年一月までは同目録(三)の、同五七年二月以降同五八年一月までは同目録(四)の、同五八年二月以降同五九年一月までは同目録(五)の、同五九年二月以降は同目録(六)の各原告に対応する請求額欄に記載のとおりである。

ところで、出向元と出向先との間に特別の合意がない限り、両会社は出向社員に対し、賃金を連帯して支払う義務を負っているものと解すべきであり、本件においても被告アメックス・インクと被告沖縄ツーリストとの間には、出向社員たる原告らの賃金支払いについて何らの合意がないのであるから、被告らは、連帯して、原告らに対し、前記各賃金を支払う義務がある。

8  原告らの賞与請求権

被告アメックス・インクの就業規則には、夏期賞与及び冬期賞与としてそれぞれ基本給の二・五か月分が支払われる旨の定めがあり、前記7の原告らの各賃金を基礎に算出した各年度の夏期賞与及び冬期賞与の額は、昭和五四年一二月一五日に支払うべきものは別紙賞与目録(○)の、昭和五五年は同目録(一)の、昭和五六年は同目録(二)の、昭和五七年は同目録(三)の、昭和五八年は同目録(四)の、昭和五九年以降は同目録(五)の各原告に対応する請求額欄に記載のとおりとなり、それぞれの支払期は慣行上毎年六月一五日及び一二月一五日である。

右賞与は、前記7の賃金と同様に被告両名が連帯して支払う義務がある。

よって、原告らは、被告アメックス・インクに対し従業員たる地位の確認並びに従業員たる地位に基づいて請求の趣旨記載のとおり賃金、賞与及びこれらに対する各支払期から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による金員の各支払いを、被告沖縄ツーリストに対し被告アメックスからの出向社員たる地位の確認並びに出向社員たる地位に基づいて請求の趣旨記載のとおり賃金、賞与及びこれらに対する各支払期から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による金員の各支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告アメックス・インク

(一) 請求原因1について

(1)(一)の事実は認める。

(2)(二)の事実は知らない。

(二) 請求原因2の事実は認める。

(三) 請求原因3の事実は認める。

(四) 請求原因4の主張は争う。

(五) 請求原因5の事実は否認する。

(六) 請求原因7の事実中、昭和五四年一〇月三一日における各原告の賃金額(基本給に家族手当、昼食手当、住宅手当、交通費、デューティ・アラウワンスを含む。)が別紙賃金目録(一)の各原告に対応する請求額欄に記載のとおりであること、賃金は毎年二月を基準月として労使協議により改訂される慣行であることは認め、その余の主張は争う。

(七) 請求原因8の事実中、被告アメックス・インクの就業規則には、夏期賞与及び冬期賞与としてそれぞれ基本給の二・五か月分が支払われる旨定められていることは認め、その余の事実及び主張は否認ないし争う。

なお、右各賞与の支払期は、毎年六月一四日及び一二月一四日である。

2  被告沖縄ツーリスト

(一) 請求原因1について

(1)(一)の事実は知らない。

(2)(二)の事実は認める。

(二) 請求原因6の事実は否認する。

(三) 請求原因7の事実は知らない。

(四) 請求原因8の事実は知らない。

三  被告アメックス・インクの抗弁(整理解雇)

1  沖縄営業所閉鎖及び人員整理の必要性

被告アメックス・インクの沖縄営業所(以下「沖縄営業所」という。)の閉鎖は次のとおり右営業所の成績が赤字に転落し、沖縄市場における長期的衰退傾向からみて、将来回復の見込みもないので、閉鎖せざるを得ないという純粋に経済的な必要性からなされたものであり、それに伴なう人員整理もまた已むを得ないものである。

(一) 沖縄営業所における営業収支は、昭和五二年度に約一四一万円、昭和五三年度に約二五三二万円、昭和五四年度に約三〇二五万円の各欠損を計上し、また、被告アメックス・インクの旅行部門は、東京、大阪営業所を含め、全国的に不振にあえいでおり、例えば、東京営業所は、旅行部を中心に毎年一億円近い赤字を出し続けていた。

(二) 沖縄営業所は、その事務所の殆んどが米軍基地内にあり、顧客の大部分が軍関係者であることから、昭和五三年、昭和五四年当時の沖縄営業所の収入のうち九五パーセントがドル建であったが、沖縄の日本復帰に伴なう米軍基地の縮少、ドルの変動相場制移行、その後の円高基調などの構造的要因によって、欠損がさらに増大する傾向にあった。

しかも、沖縄営業所は、沖縄の旅行業のマーケット・シェア五〇パーセントを占める被告沖縄ツーリストと競合関係にあり、被告アメックス・インクの知名度の低さなどから、旅行部門においては、常に被告沖縄ツーリストに優位に立たれていた。

また、将来の予測としても、昭和五四年時点においては、沖縄営業所の黒字転換の可能性はなかった。

(三) 以上のように、被告アメックス・インク旅行部門再建のためには、沖縄営業所を閉鎖する以外に途はなく、それに伴ない沖縄営業所の従業員は余剰人員となり、整理する必要が生じた。

2  沖縄営業所閉鎖の理由、再就職等についての原告らに対する説明努力について

被告アメックス・インクは、次のとおり、沖縄営業所閉鎖の理由、被告沖縄ツーリストへの就職斡旋(その労働条件等)等について、原告らに十分な説明をなした。

(一) 被告アメックス・インクは、被告沖縄ツーリストに対し、沖縄営業所の閉鎖を前提として、昭和五三年末あるいは昭和五四年初めころ、同営業所閉鎖後は、同所において被告沖縄ツーリストが被告アメックス・インクのレプレゼンタティブ(業務提携者)として、新たに営業を始めて業務を処理するいわゆるレプレゼンタティブ契約締結の申込をし、その後、両被告間における数回の交渉の結果、被告沖縄ツーリストは、昭和五四年五月三一日、右申込を承諾した。

(二) ところで、レプレゼンタティブ業務の開始にあたり、被告沖縄ツーリストが新たに国際航空券の販売をするには、国際民間航空輸送協会(「IATA」と略称し、国際航空運賃の決定や会社間の運賃貸借の決済を行なう国際航空連盟で、旅行業者は、同協会から正式の特約店(代理店)の認可を受けて初めて国際航空券の販売ができることになっている。以下「イアタ」という。)による認可を受ける必要があったが、右認可申請から認可までの資格審査期間が六か月を下回ることがなかったことから、被告アメックス・インクは、沖縄営業所の閉鎖と被告沖縄ツーリストによるレプレゼンタティブ業務開始を昭和五五年一月一日以降と考えていた。

(三) また、被告沖縄ツーリストも、レプレゼンタティブ業務の円滑な開始のため、昭和五五年一月一日を以って、沖縄営業所の原告らを含む従業員を被告沖縄ツーリストの従業員として新規採用する予定であり、昭和五四年五月三一日のレプレゼンタティブ契約締結当時、両被告間において、沖縄営業所閉鎖による余剰人員を被告沖縄ツーリストが新規採用する旨の事実上の合意が成立した。

(四) 被告アメックス・インクは、昭和五四年六月一日、原告らを含む沖縄営業所従業員に対して、沖縄営業所の経営状態の悪いこと、沖縄営業所は近い将来閉鎖し、その業務は、地元の代理店が引き継ぐことになっている旨の説明をしたが、沖縄営業所の従業員もこれを受けて、被告アメックス・インクに閉鎖回避の協力を要請していた。

(五) 被告アメックス・インクは、昭和五七年七月末ころ、イアタに対し、沖縄営業所の認可取消及び被告沖縄ツーリストの認可申請をした。

(六) 被告アメックス・インクは、昭和五四年一〇月一一日、被告沖縄ツーリスト代表取締役東良恒(以下「東」という。)を通じて沖縄営業所の従業員に対して、昭和五五年一月一日から被告沖縄ツーリストが被告アメックス・インクのレプレゼンタティブ業務を開始すること、沖縄営業所の従業員の処遇などについて説明した。

(七) ところが、昭和五四年一〇月一八日、イアタ東京支部から、被告沖縄ツーリストに、被告アメックス・インクの認可取消及び被告沖縄ツーリストの認可とが、当初被告らが予定していた時期よりも早く同年一〇月三一日付で下りることになった旨の連絡が入ったが、被告らは前記のとおりの計画であっため、被告沖縄ツーリストは、イアタに従業員引継ぎのために特約店認可時期を引き延ばしてくれるよう申し出たが、イアタは右申出を断った。

(八) そこで、昭和五四年一〇月二七日、東は、沖縄営業所従業員を、被告沖縄ツーリストが新たに採用する場合の雇用条件、給与体系、就業規則のあらましを説明したが、このときの従業員らの態度は極めて良好であり、原告らを含む従業員は、沖縄営業所の閉鎖、沖縄営業所従業員の解雇、被告沖縄ツーリストの新規雇用を了承していた。

(九) ところが、昭和五四年一〇月三一日に行なわれた被告アメックス・インクと組合執行部との協議の席上、原告花城清林は、被告アメックス・インクの日本代表ジェームス・エイチ・コバー(以下「コバー」という。)の拒絶にもかかわらず、右協議における話し合いをテープレコーダで隠し取りをしようとしたことから右協議は険悪なものとなり、話し合いは物分れとなって、以後、原告らは被告沖縄ツーリストへの就職斡旋を受けることを拒絶するに至った。

(一〇) そこで、被告アメックス・インクは、前記の理由で昭和五四年一〇月三一日に沖縄営業所を閉鎖し、同営業所の事務を被告沖縄ツーリストが引き継がなければならなかったことから、被告沖縄ツーリストへの再就職を希望しなかった原告らを余剰人員として一ケ月分の賃金を予告手当として提供したうえ、同日付で已むなく解雇する旨の意思表示をした。

3  まとめ

以上のとおり、本件解雇の意思表示は、赤字に悩む沖縄営業所の閉鎖及びそれによって余剰人員が生じたための人員整理の必要性に基づいて、原告ら組合員との間において右必要性についての十分な説明が尽されたうえでなされたものであるから有効なものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁による主張は争う。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(当事者)のうち、(一)の事実は原告らと被告アメックス・インクとの間で争いがなく、(二)の事実は原告らと被告沖縄ツーリストとの間で争いがない。

二  請求原因2(雇用契約の成立)及び3(解雇の意思表示)の各事実は、原告らと被告アメックス・インクとの間で争いがない。

三  そこで、抗弁(整理解雇)について判断する。

1  整理解雇の有効要件

使用者が経営不振などのために従業員を減縮する必要に迫られたという理由により一定の被用者を解雇するいわゆる整理解雇において、当該解雇の意思表示が有効であるといいうるためには、当該整理解雇にあたり(1)整理解雇の必要性(企業の経営上、人員の削減が必要であるという人員整理の必要性及び使用者が整理解雇に踏み切るまでに、解雇を回避するため解雇より緩やかな他の措置(例えば、希望退職者の募集、一時帰休など)を講じたか、いわゆる解雇回避努力義務を果たしたかどうかの双方を含む。)があるかどうか、(2)被解雇者の選定に合理性(被解雇者選定のため設定された整理基準の合理性及び具体的選定にあたり整理基準が合理的に適用されたこと)があるかどうか、(3)人員整理の必要性、内容(その時期、規模、方法等)について、使用者は、労働者或いは労働組合に対し、説明し、且つ十分な協議をして、労働者或いは労働組合の納得を得るべく努力したか、いわゆる労働者に対する説明・協議の義務を果たしたかどうかの点を総合的に判断して、当該整理解雇が労使間の労働契約から派生する信義則に照らし正当なものであったことを要し、右正当性が認められない場合は、当該整理解雇は解雇権の濫用として無効であるというべきである。

2  以下、本件解雇の正当性につき判断する。

(証拠略)を総合すると、次のとおりの事実が認められる。

(一)  被告アメックス・インクは、訴外アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・バンキング・コーポレーション(以下「アメックス・バンク」という。)とともに訴外アメリカン・エキスプレス・カンパニー(以下「アメックス・カンパニー」という。)の傘下の企業として設立され、東京都、大阪府、沖縄県に営業所を有していた。

(二)  被告アメックス・インク日本支店においては、昭和四八年ころから昭和五四年ころまで年間約一億円の赤字を計上し、その累積額は約六億円にものぼっていたところ、沖縄営業所においても、昭和五一年度は総売上が約一億四〇〇〇万円で約一八五〇万円の利益を計上したが、以後総売上の減少(昭和五二年度が約一億一四六〇万円、昭和五三年度が約一億〇二九〇万円)に伴ない、昭和五二年度は約一四〇万円、昭和五三年度は約二五三〇万円の損失を計上した。

(三)  そこで、被告アメックス・インクは、このような経営不振を打開するための一策として、沖縄営業所を閉鎖し、同営業所での業務を提携方式(いわゆるレプレゼンタティブ方式)で処理することとし、昭和五三年末から昭和五四年初めころ被告沖縄ツーリストに対し、レプレゼンタティブ契約を締結したい旨申し入れていたところ、昭和五四年四月ころ、被告アメックス・インクと被告沖縄ツーリスト間において、将来レプレゼンタティブ契約を締結することが一応確認され、同年五月三一日には、右レプレゼンタティブ契約の締結が確約された。

(四)  その後、被告アメックス・インクと被告沖縄ツーリストの間で交渉がもたれ、沖縄営業所の従業員の処遇について被告アメックス・インクを退職させたうえ、被告沖縄ツーリストが新規採用する旨の確約がなされた。

(五)  被告沖縄ツーリストが、レプレゼンタティブ業務を開始するにあたり、国際航空券販売のため、イアタ(国際民間航空輸送協会)の認可が必要であったので、被告アメックス・インクは、昭和五四年七月末ないし八月初めころ、イアタに対し、沖縄営業所の認可取消と被告沖縄ツーリストの認可を申請したが、右申請から認可まで通常約六か月要するところから、被告アメックス・インクと被告沖縄ツーリストとの間では、レプレゼンタティブ業務の開始は昭和五五年一月以降になるとの予想があった。

(六)  一方、被告アメックス・インクは、昭和五四年五月三一日被告沖縄ツーリストからレプレゼンタティブ契約締結についての確約が得られたことから、同年六月一日、原告らに対し、在日代表ジェームス・エイチ・コーバー(以下「コーバー」という。)を通じて、沖縄営業所が閉鎖されることがある旨、非公式に伝えたが、その時期や原告ら従業員の処遇についての説明はなされず、以後被告アメックス・インクから原告らに対し、沖縄営業所閉鎖及びそれに付随する事項についての説明はなされなかった。

(七)  アメックス労働組合は、同年九月二九日に団体交渉を持つよう被告アメックス・インク在日代表代理マイク・イー・クレットナーに対し申し入れたが、同人は、交渉権限がないとの理由で右申し入れを拒絶した。

(八)  同年一〇月一一日、被告沖縄ツーリスト代表取締役東良恒(以下「東」という。)は、原告花城清林ら七名の者と会い、昭和五五年一月一日から被告沖縄ツーリストが被告アメックス・インクのレプレゼンタティブ業務を開始すること、沖縄営業所の従業員については被告アメックス・インクを退職したうえ、被告沖縄ツーリストが新規に雇い入れることになっていることを説明した。

(九)  ところが、同年一〇月一八日ころ、被告沖縄ツーリストは、被告アメックス・インク及びイアタ双方から同月三一日付で沖縄営業所の国際航空券販売の認可が取り消され、同年一一月一日付で被告沖縄ツーリストの国際航空券販売の認可がおりることになった旨の通知を受けたため、東は、同年一〇月二四日、原告らに連絡をとり、同月二七日、原告らと会い、沖縄営業所が閉鎖になり、被告沖縄ツーリストがレプレゼンタティブ業務を開始する際の協力方を要請し、原告らを全員被告沖縄ツーリストの従業員として採用する予定である旨告げ、その際の給与、就業規則等の説明をし、被告アメックス・インクから被告沖縄ツーリストへの業務引継の日である同年一一月一日には、全員で事務に就いて欲しい旨要請したところ、原告らは、条件等に不満はあったものの一応は賛意を表し、同年一〇月二九日までに被告沖縄ツーリストに採用希望するかどうかの意思確認をすることになったが、原告ら及び沖縄営業所従業員は正式に右意思を被告沖縄ツーリストに同日までには伝えなかった。

(一〇)  同月三一日、原告らは、コーバー及び被告アメックス・インク在日代表山本家敏(以下「山本」という。)と団体交渉を持ったが、原告花城清林がその模様をテープレコーダに収録しようとしたことから交渉は決裂し、原告らは、コーバーらから沖縄営業所閉鎖の理由等について何ら具体的説明を受けることがなかった。

(一一)  被告アメックス・インクは、被告沖縄ツーリストとの間に、同年一〇月三〇日、レプレゼンタティブ契約を締結し予定通り一〇月三一日を以って、沖縄営業所を閉鎖し、被告沖縄ツーリストは、翌一一月一日から沖縄営業所と同一場所において前記レプレゼンタティブ契約に基づく業務を開始した。

(一二)  そして、被告アメックス・インクは、同年一〇月三一日付文書を以って、原告らを解雇する旨の意思表示をなし、右各意思表示は、同年一一月二日ころ、原告らに到達した(この事実は、原告らと被告アメックス・インクとの間では争いがない。)。

以上のとおり認められ、(人証判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  そこで、本件解雇の正当性の有無につき判断する。

(一)  整理解雇の必要性

(1) 前記認定のとおり、被告アメックス・インクは、昭和四八年ころから年間約一億円もの赤字を計上し、それが昭和五三年ころまで累積していたことを考慮すると、その打開策として、将来的に利益を見込むことができないと判断された沖縄営業所を閉鎖し、そこでの業務をレプレゼンタティブ方式に転換するかどうかは、元来、利益を追及する私企業の経営の自由に属することであり、右行為が組合壊滅のための擬装のものでない限り、これについて、当不当の判断をなし得ないものと解すべきところ、前記認定のとおり、沖縄営業所は、昭和五四年一〇月三一日を以って閉鎖され、同年一一月一日からは、被告沖縄ツーリストという全くの別法人により、同営業所の業務がレプレゼンタティブ方式という形で遂行されているのであるから、被告アメックス・インクがなした沖縄営業所の閉鎖を不当と判断することは到底できない。

(2) 次に、被告アメックス・インクが原告らを解雇するまでに、それを回避する努力をしたかどうかについてみるのに、前記認定のとおり、被告アメックス・インクは、昭和五四年五月ころから被告沖縄ツーリストとの間で、沖縄営業所閉鎖後の同営業所従業員の処遇についての協議をもち、結局被告沖縄ツーリストが同営業所の全従業員を新規採用する方針が確定し、以後、専ら、被告沖縄ツーリストが原告らと交渉の場をもち、賃金その他の労働条件について説明して被告沖縄ツーリストへの入社を勧めているが、被告アメックス・インクは、希望退職者を募集する等解雇を回避するための措置は何ら措られていない。

もっとも、被告沖縄ツーリストへの新規入社の途を開いたことを以って、希望退職者募集の一態様と見られなくはないが、原告らが被告沖縄ツーリストへの入社意思を明らかにしなかったため、直ちに解雇したことにも見られるように、右措置をもって、解雇回避努力を尽くしたものとは到底認められない。被告アメックス・インクとしては、被告沖縄ツーリストへの入社を拒絶した者については、他営業所への配置転換、同一系列会社への出向させることなども本件においては十分に考えられる解雇回避措置が存するからである。

(二)  整理基準の合理性

複数の営業所を有する企業において、一営業所を廃止することにより、当該営業所の従業員の数だけ余剰人員が生じたとして整理解雇するにあたっては、当該営業所が独立採算制を採っているか、従業員の採用等人事権について他の営業所から独立しているか等の観点から、他の営業所から全く独立したものと認められない限り、整理解雇の対象者を当該営業所の従業員に限定することは妥当でなく、全企業的観点からこれを選定すべきであると解されるところ、本件においては、前記認定のとおり、被告アメックス・インクは東京都、大阪府等にも営業所を有しているが、沖縄営業所が右各営業所から独立性を有しているかどうかの主張立証はなく、従って、整理解雇の対象者を沖縄営業所の従業員たる原告らに限定したのは妥当とはいい得ないものである。

(三)  説明・協議義務について

前記認定のとおり、被告アメックス・インクは、沖縄営業所閉鎖、それに伴なう人員整理を決定した後、原告ら労働組合員に対し、昭和五四年六月一日に非公式という形で右事実を伝えたのみで、原告らの団体交渉も拒絶し、その後は専ら被告沖縄ツーリストというまったくの第三者に就職の受け入れを押し任せたまま、同年一〇月三一日には原告らとの雇用契約を何らかの形で解消し、原告らは当然被告沖縄ツーリストに再就職するという前提のもとで、沖縄営業所閉鎖の理由、人員整理の必要性、規模、方法等についての説明は、全くなさなかったばかりか、同年一〇月三一日の原告らとの団体交渉が決裂するや直ちに同日付で原告らを解雇する意思表示をしているのであって、これらの事実からすると、被告アメックス・インクが本件解雇にあたり、原告らに対し、人員整理の必要性及びその内容の説明をし、且つ原告らと十分な協議を尽くしたうえ、原告らの納得を得るべく努力したとは到底認められない。

(四)  まとめ

以上のとおり、被告アメックス・インクのなした本件解雇は整理解雇の必要性、整理基準の合理性、説明・協議義務の全ての点において、正当と判断することはできず、その余の点(不当労働行為)について判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効であるというべきである。

四  請求原因6(出向命令)の事実については、これを認めるに足りる証拠は存せず、原告らが被告沖縄ツーリストに対し被告アメックス・インクからの出向社員たる地位を有するものとは認められない。

五  請求原因7(原告らの賃金請求権)について判断する。

1  前記のとおり、原告らが被告沖縄ツーリストに対し、被告アメックス・インクからの出向社員たる地位を有するとは認められず、原告らが被告沖縄ツーリストに対し、各賃金請求権を有していないことは明らかである。

2  昭和五四年一〇月三一日における原告らの各月額賃金(基本給に家族手当、昼食手当、住宅手当、交通費、デューティ・アラウワンスを含む。)が別紙賃金目録(一)の各原告に対応する請求額欄に記載のとおりであること、賃金は毎年二月を基準月として労使協議により改訂される慣行であることは原告らと被告アメックス・インクとの間で争いがない。

3  (証拠略)を総合すると以下の事実が認められる。

(一)  昭和五五年二月における被告アメックス・インク従業員一二名の基本給の昇給率の平均は一〇・三五パーセントになるが、右従業員のうち五名については、一般企業に比較して特に給与水準が低いということで労使協議の結果春闘相場よりも若干上積みすることで話し合いがつき、他の従業員よりも高い比率で特に昇給した。

右五名の従業員を除いた七名についての基本給の平均昇給率は八・八一パーセントである。

(二)  以後、昭和五六年、昭和五七年、昭和五八年、昭和五九年の各月における、被告アメックス・インク従業員の基本給の平均昇給率はそれぞれ六・七八パーセント、五・九四パーセント、六・〇四パーセント、四・九パーセントである。

(三)  被告アメックス・インクの支給給与の内容は、基本給、家族手当、昼食手当、住宅手当、デューティ・アラウワンス(昭和五五年以降は基本給に組み入れられ、昇給の対象となっている。)、交通費であるが、右のうち昼食手当及び交通費は、実費支給とされており、一ケ月以上事務に就かない者に対しては支給されないこととなっている。

(四)  昭和五四年一一月当時の原告らの基本給月額は、原告花城清林は金一五万三五〇〇円、同大見昭子は金一七万〇四〇〇円、同上江洲冨士子は金一七万〇六〇〇円、同宮里多津子は金一六万五〇〇〇円、同嵩本ジュン、同宮城恵子及び同城間メリーは各金一〇万円であった。

(五)  被告アメックス・インクは就業規則によれば、原告らは別紙賃金計算書(略)(一)ないし(七)の各家族手当、住宅手当及びデューティ・アラウワンス欄記載の手当を受け得る。

(六)  被告アメックス・インクの給与支払期日は毎月二五日である。

以上のとおり認められ、前記各証拠中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  そこで、前記2の原告らと被告アメックス・インクとの間で争いのない事実及び前記3の認定事実に基づいて原告らの賃金月額を計算すると別紙賃金計算書(一)ないし(七)に記載のとおりとなる。

なお、原告らは、昼食手当及び交通費も支給さるべきであると主張するが、前記3の(三)で認定のとおり右各手当は就業を前提として支給されると定められ、且つ前記3の(五)で認定のとおり基本給の昇給に伴なって引き上げられている訳ではないことを考え併わせると、右各手当は実費支給であって、原告らは昭和五四年一一月以降就業していないのであるから、その支給を請求する権利はないものというべきである。

六  請求原因8(原告らの賞与請求権)について判断する。

1  前記六の1と同様の理由で、原告らが被告沖縄ツーリストに対し、各賞与請求権を有していないことは明らかである。

2  被告アメックス・インクの就業規則によると、夏期賞与及び冬期賞与としてそれぞれ基本給の二・五か月分が支払われることは、原告らと被告アメックス・インクとの間で争いがない。

3  また、弁論の全趣旨からすると、右各賞与の支払期日は、毎年六月一四日及び一二月一四日であると認められ、右認定に反する証拠はない。

4  そこで、前記六で認定の原告らの各基本給を基礎に、原告らの各賞与を算出すると別紙賞与計算書(略)に記載のとおりとなる。

七  以上の次第で、原告らの被告アメックス・インクに対する各請求は、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、被告アメックス・インクに対するその余の各請求及び被告沖縄ツーリストに対する各請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前原正治 裁判官 飯島悟 裁判官 野村尚)

賃金目録(一)

<省略>

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